夢の終わりに

第 6 話


大きな歓声と拍手に、思考は一瞬で現実へと戻ってきた。
パフォーマンスを終えた芸人達が大きく頭を下げると、それも一つの音楽では?と思うほどの勢いで、チャリンチャリンとお金が投げ入れられる。すごいな、さっきの分はちゃんと回収してたのに、もうこんなに。コインだけではなく札も入れられ、スザクがいれば儲かるのは間違いないなと頷いた。筋肉芸人たちは始終笑顔で、これはこの後ぱーっと飲みに行く気だと見て解る。

「本日はこれで終了です。ご覧下さりありがとうございました。また明日も朝から15時までここでショーを行いますので、よろしければ残り二日間も宜しくお願いいたします!」

その言葉に、後ろの方にいた者たちから残念そうな声が上がった。
それはそうだろう、次は間近で見れる!と思ったら終わりなのだ。
一部始終を間近で見た俺に言わせれば、これは並んでも見る価値あり!ぜひ明日は早くから特等席で見る事をお勧めする。
時計を見ると確かに15時。ここは9時からやってたはずだから、彼らは6時間ぶっ通しでパフォーマンスを続けていた事になる。そりゃ疲れるか。スザクは大丈夫でも他の面々が。きっと普段であればある程度セーブし、休憩をはさみながら開催時間ギリギリの17時までここにいるだろうが、スザクが加わってしまえば手抜きなど出来ない。全力投球に成るため、開演時間も短くなってしまうのだろう。その結果17時まで粘る以上の稼ぎにもなると。
納得納得。
俺も財布から金を出し、お金が沢山入っているケースに入れた。ルルーシュも同じく入れる。芸人たちは撤収作業に入っているが、スザクはというと、また先ほどと同じでスカウトらしき人と女性に取り囲まれていた。
撤収作業があるのでと言っても引かず、終わりならこの後詳しくと、反対に詰め寄られてしまう。可哀そうに。さっきまでは羨ましいと思っていたが、こうなるとスザクとして生きるのは大変だなと思う。女には不自由しないだろうし、性格見た目共に好青年というのは理想の自分と言ってもいいが、スザクは何せ目立つ。大人しくしていてもそこそこ目立つが、こうして体を動かす事をすると、人一倍目立つ。そうなると、これだ。

「すみません、僕はこの道で生きていくつもりは無いんです。今回も手伝いで・・・」
「手伝い?それでこれだけの芸を?勿体ない、是非その力を生かすべきだ」

わかるわかる。
これだけすごいのに、俺と同じバックパッカーで、世界中歩き回ってるなんてもったいない。非常にもったいない。これだけ高い身体能力なら、それこそスポーツの道にでも進み、いずれ金メダルだって夢じゃない。あー勿体ない。俺がスザクなら、その顔と能力で世界一目指してるっての。
目立って大変だろうが、やっぱりなんだかんだ言って羨ましい人生だ。
芸人の撤収作業が始まれば、見物客も引いていく。
仕切りのロープの後ろにあった黒だかりの人山は既に無い。隣に座るルルーシュは、やはり疲れたのかどうやら眠っているらしい。芸人たちは俺たちがスザクの連れだと知っているから、片付け終わるまで座ってていいと気を使ってくれた。小腹がすいた時用に用意したというお菓子まで差し入れてくれる。
ジュースとお菓子で小腹を満たしながらのんびりしていると、それから10分ほどして、ようやくスザクはまとわりついてた人たちから解放された。
疲れきったような顔をしてこちらに来ると、俺たちの前で地面に座り込んだ。

「疲れた・・・」

もう動きたくないと言わんばかりの言葉に思わず噴き出した。

「お前の疲れってさ、絶対いまのやり取りの疲れだろ」
「当たり前だよ。動いてる方がずっと楽だし、これがなかったらホント楽しいのにっていつも思うよ。・・・ねえリヴァル。もしかしてルルーシュ寝てない?」

そう言いながら顔を覗きこむ。
前髪が邪魔でよく見えないだろうが、無反応な時点で御察しだ。

「寝てる寝てる。ああ、でも、寝たのは撤収始まってからだからな?お前の芸はちゃーんと見てたぜ。お前ホント凄いな」
「ありがとうリヴァル。そうだ、明日からリヴァルも参加する?体を動かすのは楽しいよ?」
「無理無理無理!絶対無理ですごめんなさい勘弁して!」

え?は?あの筋肉だるまと人外の群れに飛び込めと?何その罰ゲーム!

「えー?でも、見てるより参加したほうが絶対に楽しいのに」
「あのなぁ。俺にはあんな芸当出来ないって。ルルーシュも無理だからな」
「ルルーシュは誘わないよ?」

そんなの、当たり前じゃないか。と言いたげな態度に、ちょっとだけルルーシュが可哀そうになった。同じ男で、しかもこの中では最年少。それなのにだ。男としてそれは辛い。大丈夫だルルーシュ、今から鍛えれば少しはましになるさ。

「なら俺も誘わないでください。もういい年なんだしさ」
「えー?まだ34でしょ?若い若い。ここ最年長で40だからいけるよ」
「無理!長年芸人やっている方々と一緒にするな!」
「僕芸人じゃないよ?でもできるし?」
「お前と一緒にするな!こういうときは、ルルーシュと同レベルで考えてくれ」
「え?ええええ?う~ん、そこまで?」

あからさまに同情の眼差しを向けられてしまった。

「・・・お前の中のルルーシュってどんだけだよ」
「え・・・う~ん、女の子より体力なさそうだよね?」

すまんルルーシュ、返す言葉がない。
女子と走ってルルーシュが勝てるイメージが一切わかない。

「僕も片付けしてくるよ。終わったらご飯食べに行こう」

僕が奢るから。と、にっこり笑顔で立ち上り、芸人達の元へ戻って行った。

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